鹿児島空港から程近いR223を通るたびに気になっていた。
道路脇に掲げられた「ラムネ温泉」という、湯への想像をかき立てる看板を見て、何度入りたい衝動に駆られたことか......。
清流・天降川沿いの妙見、安楽、新川、山の湯、日の出、塩浸の新川渓谷温泉郷のなかで唯一、廃業してしまった一軒宿。
つぶれて10余年が経って建物は瓦礫の山。
許可を得て入ると、錆び付いた鉄骨階段も倒壊寸前だが、それゆえ"浴望"をそそる。
草をかきわけ、建具や家具をどかしてやっと浴室跡にたどり着いたが、湯船はカラ。
それでも諦めずに宿裏にまわると、あった!
荒れた廃屋とは対照的に立派な祠が鎮座し、中にある洞窟の岩間から源泉が湧き出ているではないか。
そこには一種、神々しさすら漂っている。
源泉は、赤茶色に見えるが析出物をのぞけば透明。
ラムネの名のとおり炭酸甘塩味で、金気臭がする。
そばに置いてあった柄杓で湯をすくって身体に浴びながら、人間の手による人工物の僅さと、自然が生み出す悠久の恵みにしばし思いを馳せた。